日本うつ病学会は、2016年に治療ガイドラインをDSM-4からDSM-5に改訂しました。前回の改訂から3年ぶりのことになります。
DSM-4からDSM-5への変更点は以下の2つになります。
1.子どものうつ病などについて追加
2.軽症のうつ病の内容を改訂
今回の記事では、軽症のうつ病についてのガイドラインの変更点を踏まえて、軽症うつ病について詳しく説明したいと思います。
通常のうつ病と軽度のうつ病の診断基準の違いとは?
両者の違いを説明する前に、まずはうつ病の診断基準についてご説明しましょう。
うつ病の診断基準
1.以下の9項目のうち、あわせて5つ以上を満たすこと
・憂うつ
・興味や喜びの喪失
・食欲の異常
・睡眠の異常
・そわそわする または 体が重い
・疲れやすい
・自分を責める
・思考力、集中力の低下
・死にたいと思う
2.その際、赤字の項目のどちらか1つを含むこと
3.上記の症状がほとんど1日中、2週間以上続く
4.仕事、学校、家庭などで何らかの問題が起きている
以上の1~4をすべて満たしていると、うつ病と診断されます。
軽度のうつ病の診断基準は?
軽症かどうかを判断する基準は2つあります。
1つは、症状の個数です。
上で挙げた症状の項目数が、5~6個と比較的少ない場合が当てはまります。
2つ目は「生産性は落ちていても、仕事や学校などに休まず行けている状態」であることです。
この2つの基準に当てはまれば、軽症と判断されます。
ただ、一概にこの2つを満たしていれば軽症とみなされるわけでもありません。
たとえば、「学校には行けているが、死にたい気持ちが非常に強い」という場合には、重症と判断される場合もあります。
症状を総合的に勘案して判断するということなので、軽症かどうかの境界線はあいまいな印象を受けます。
その結果、医師によって診断結果が異なるという矛盾もしばしば見受けられます。
診断するうえでの注意点
うつ病の特徴として「抑うつ」症状がありますが、うつ病の他にも抑うつ症状を伴う病気があります。
たとえば、アルコール依存症や認知症、甲状腺の病気やガンなどです。
これらの病気をうつ病と誤診してしまうと、症状が治らないばかりか悪化してしまう怖れがありますので注意が必要です。
一旦これらの病気の可能性を除外した上で、うつ病の診断をすることが非常に重要となります。
軽度のうつ病では休職を勧めないこともある
冒頭でお伝えしたとおり、DSM-5では、軽症のうつ病の内容が改訂されました。
DSM-4では、休養の目安についての記載はありませんでしたが、DSM-5では休養に関する内容が追加されました。
今までは、うつ病だと診断されたら、症状が軽くても休養が勧められていました。
しかし、今回の改訂では「患者の状態に合わせて休み、場合によっては社会的役割を回復することも必要だ」とされています。
現実的には、休養をすすめる場合がほとんどですが、中には「ここは頑張って会社や学校に行った方がいいんじゃないか」というケースもあります。
そのようなケースで重要になってくるのが「レジリエンス」という概念です。
「レジリエンス」は「ストレス」とセットで覚えておくとわかりやすいと思います。
「ストレス」というのは、外から加えられた力に対する歪みのことです。
それに対して「レジリエンス」とは、反発しようとする力、つまり「自己回復力」のことを指します。
・あきらめない
・頑張ろう
・前向きな気持ちになりたい
・良くなりたい
こういった気持ちは誰もが持っているもので、うつ病を治すうえではとても大切な力になります。
現在のうつ病治療では、この「『レジリエンス』を伸ばすにはどうすればよいか」という観点が重要視されるようになってきています。
レジリエンスを生かした治療について
軽症うつ病の場合には、「心理教育」と「支持的精神療法」の2つを柱として治療が行われます。
心理教育
心理教育とは「うつ病についての説明」のことです。
うつ病の人たちは、残念ながら「自分たちは怠けている、サボっているだけで、病気ではない」と誤解している人が数多くいらっしゃいます。
うつ病についてしっかりと説明することで、病気であることを正しく認識してもらいます。
その他、「どのように治療を進めていくか」の説明も行います。
うつ病の場合、治療開始から「寛解」を経て「回復」に至ります。
「寛解」というのは、「症状がなくなること」で、ここが1つのゴールでもあります。
「治療開始」から「寛解」までは、早くて3ヶ月程度かかり、薬や治療を変えると半年~1年程度かかります。
「寛解」から「回復」までは半年程度かかり、「治療開始」から「回復」までを合計すると、だいたい1年ちょっとが治療期間の目安となります。
治療開始から寛解まで、一直線に改善していけば良いのですが、なかなかそううまくはいきません。
実際には「三歩進んで二歩下がる」という具合に、調子が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、徐々に改善していきます。
途中で治療をやめてしまうと、治療開始時よりも症状が悪くなってしまう人もいますので、とことん治す気持ちで治療に取り組むことが大切です。
うつ病については、このブログでも詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
支持的精神療法(傾聴)
うつ病の人たちは、皆悩みを持っていたり、つらい体験を経験したりしています。
しかし、「こんなことを言ったら嫌われてしまうのではないか」などと考え、家族や親しい人たちに遠慮して、悩み等を言えない人も少なからずいらっしゃいます。
そんな時、「大丈夫です、秘密は守ります。」と言って、話を聞くこと(傾聴)が、人によってはまず何よりも効果がある、ということもあり得ます。
「心理教育」と「支持的精神療法」が軽症うつ病のメインの治療法ですが、さらに、患者さんからの希望があれば「薬物療法」や「認知行動療法」が行われます。
薬物療法と認知行動療法を併用することも可能です。
薬物療法
推奨される人
・睡眠、食欲の障害がある人
・落ち着かない人 など
デメリット
・副作用がある
薬物療法については、自分の身の安全を守るためにも、ぜひこちらの記事をご覧ください。
>>うつ病の薬は飲みたくない!~10年以上治らないあなたへ
認知行動療法
認知行動療法とは、ものの考え方や行動を修正する、より専門的な心理療法のことです。
推奨される人
・ストレスの原因が明らかな人
・妊娠、授乳中など、薬の服用が好ましくない人
デメリット
・効果が出るまで時間がかかる
・専門医が少ない。予約待ち
自分でできる軽度のうつ病の治し方
うつ病が寛解、回復した人に「自分でできることで、何をしましたか?」というアンケートをとりました。
そのアンケート結果の中で、多かった回答が以下の3つです。これはオランダで行なわれたアンケートですが、日本においても十分当てはまります。
1位 前向きな態度をとる
先のことではなく、明日のことを考える
うつ病の人は、「3ヶ月後に仕事復帰できるだろうか」などと、先のことを考えて心配事を増やしてしまいます。
そんな先のことは考えずに、今日や明日の身近なことを考えることが心配事を増やさないコツです。
ポジティブな記憶を思い出す
うつ病の人はネガティブなことばかり繰り返し思い出してしまう傾向があります。昔の楽しかった出来事などを意識して思い出すようにしましょう。
2位 生活リズムを整える
・決まった時間に家を出る
・起床・就寝の時間を一定にする など
昼夜逆転など不規則な生活を治したい人はこちら
>>朝の目覚めを良くする方法~光で起きる目覚まし時計とは?
3位 より積極的な行動をする
・運動をする など
症状が重くてつらい場合には、運動をするとかえって悪化してしまいます。回復期などに軽めの運動から始めるのが良いでしょう。
例)週に3日、30~45分の散歩をする など
最後に
軽症のうつ病は、「本人が気づかない」「自然に治るだろう」などの理由から、治療しないままになりがちです。
軽症でも放っておくと重症化することがあります。重症化する前に、早めに対策をとることが大切です。
軽度のうつ病にはこちらがお勧めです。
>>プチ認知療法の本音レビュー
私の体験談が何かの役に立つかもしれません。
良かったらご覧ください。