これは、以前フジテレビの「こたえてちょ~だい」
という番組で取り上げられていた実話です。
主人公は中学一年生の少女。
仮に佐々木恵理さんとしておきましょう。
家族構成は、やさしい母、躾に厳しい父、
成績優秀で運動神経抜群の姉と
4歳年下の弟の5人家族です。
恵理さんはとても明るい少女で友達も多く、
学校ではリーダー的な存在でした。
部活の先輩に目をつけられ体に異変が…
中学校では吹奏楽部に入っていたのですが、
ある日、部活のミーティングの時に、
先輩達から名指しで注意を受けてしまいます。
「佐々木さん、あなたしゃべってる声が
大きすぎるのよね。
笑い声も大きすぎて、みんなの迷惑に
なるからやめてくれない?」
同級生の友達は、後でなぐさめてくれましたが、
その日から先輩達の執拗な注意が始まります。
それでも家では努めて明るく振る舞っていたのですが、
ある朝、鏡を見ると顔に「ひっかき傷」がついていました。
その時のことを後から考えると、
「身体がSOSを発していたんじゃないかな」と
恵理さんは言います。
それでも「頑張らなきゃ」と自分に言い聞かせ、
部活にも出席していましたが、とうとう体に
無理がたたり、中一の夏に倒れてしまいます。
石がお腹に入っているような
「強烈な腹痛」を訴え、病院へ行くのですが、
検査をしても特別な異常は見られません。
その後、部活に出ようとすると
腹痛が起きるようになりました。
同級生に悩みを打ち明けても
「恵理なら頑張れるよ」と励ますばかり。
顧問の先生に退部を願い出ても、
励ますばかりで辞めさせてくれません。
お母さんに相談しても、
「お姉ちゃんだって辛いとき頑張ったんだから、
恵理だって頑張れるよ」
と、お姉さんと比較して励ますばかりです。
「私のことを受け止めてくれないんだ…
やっぱり私は学校で活動してなきゃダメなんだ…」
この時、恵理さんの心は完全に折れてしまいました。
中学一年の10月から不登校が始まることになります。
不登校からリストカットへ
恵理さんが不登校になってから、
お母さんは学校へ行くことを強要しないように
気をつけていましたが、お父さんは厳しく責め続けます。
父親とは顔を合わせたくなかったけれど、
家の雰囲気が悪くなるので、仕方なく
ご飯の時などは顔を合わせるようにしていました。
「学校に行きたいのに行けない。」
「休んでいると悪いことをしている気分になる。」
そんなストレスを抱え続けた結果、
恵理さんは包丁を持ち出して、
「私を殺して」と母親に迫ったり、
手首を切って自殺未遂を図ったりもしました。
手首を切ったら落ち着くので、
その後何十回もリストカットを繰り返したと言います。
↑リストカットの跡(実際の映像)
見かねたお母さんは、恵理さんに
思いを込めた手紙を書きます。
この手紙のやり取りで少し症状も良くなり、
保健室登校ができるようになるのですが、
自分のクラスに入るとパニックを起こしてしまいます。
困り果てたお母さんは、恵理さんを連れて
伊藤幸弘さんのもとを訪れました。
伊藤幸弘さんについて、
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
不登校の隠された原因とは
伊藤さんの自宅でカウンセリングが始まりました。
母親によると、父親は子供会のコーチや
監督を行なうスポーツマンで、大の子供好き。
子供のためだったら何でもするようなタイプと言います。
小さいころから、夫婦ともに子供たちと
よく遊んできた明るい家庭だったと話します。
それを聞いた伊藤さんは、当初
「不登校になる要素が見当たらない」と
頭を悩ませていました。
しかし、カウンセリングが進むにつれて、
だんだんと問題点が浮き彫りになってきます。
「4歳の時に弟が生まれて、何をするにも弟優先で、
弟ばかりが目を集める感じだった」
「お母さんを弟に取られたと思った」
恵理さんの口からこれらの言葉を聞いた伊藤さんは、
4歳までの子育てに問題があったのではないかと考えます。
「子供の問題行動「本当の原因」とは何か?」で
お伝えした通り、通常、4歳までにしっかり愛情を
受けて育ったのであれば、弟に注目が集まっても
気にならないはずだと伊藤さんは言います。
意識的ではないにしろ、
不登校になれば、両親の目が恵理さんに向かう。
それが嬉しくて問題行動を繰り返していたのではないか。
伊藤さんは不登校の隠された原因は、
「お母さんを独り占めしたい」
という欲求だったことに気がつきました。
ひきこもり型の性格は不登校になりやすい
さらに、恵理さんは前回の記事
「子育ては性格別で変わる~問題行動を起こす2つのタイプとは」
でお伝えした「ひきこもり型」の特徴である
・感受性が強い
・プライドが強い
・気が弱い
という3つの要素も持っていました。
人より感受性が強いから、学校に行くと
みんなに見られているようで疲れてしまう。
プライドが強いから、常に良く見られようと振舞う。
ちょっとしたことで自尊心が傷つけられて疲れてしまう。
気が弱いので空気を壊してはいけないと
必要以上に気を遣いすぎて疲れてしまう。
こういった要素も不登校の一因となっていました。
「子育ての失敗はやり直しできるのか?」
でお伝えしたように、幼児期の子育てを振り返って、
自分の子供がどんな性質を持っているのか、
把握することが問題解決の第一歩になります。
恵理さんは学校に行くと、
人のことを気にしすぎてしまう。
そして、自分に自信が持つことができない。
「自分に自信がないのは、人を信じる力が弱いからだ」
と伊藤さんは言います。
人を信じることができれば、自分に自信を持つことができます。
きちんと順序立てて成熟してこなかった恵利さんには、
自分がどういう人間なのかを理解できていなかったのです。
いわゆるアイデンティティ(自己同一性)の確立が
できていないと、自分に自信を持てないまま
大きくなってしまいます。
そして、恵理さんの場合、アイデンティティが
確立できなかったのは、4歳までの子育てが
しっかりできていなかったからだと考えられます。
正しく成熟していく過程とは
アイデンティティを確立するには、
「成長の成熟過程」を順序良く通っていく必要があります。
まず0~2歳までに「親子の信頼関係」を築きます。
これは、親の無償の愛により、子供と信頼関係を作ることです。
2~4歳では「自立性」を養います。
親の保護のもとで、自分のすることを覚えていきます。
自立性を養えないと「主体性」が欠けた状態になってしまいます。
4~12歳では「勤勉性」を養います。
この期間は誰かに教わることで知識を広げていきます。
プライドが強い子供は知らないのに知っているフリをして、
相手に敬遠されることが多くなります。
12~13歳で「アイデンティティ」が確立されていきます。
アイデンティティが確立されてくると、
周りから評価されることよりも、
自分がどんな人間かを優先して物事を考えられるようになります。
恵理さんの場合には、0~4歳の子育てをやり直さないと、
しっかりとした自我を確立することができません。
子供と両親の意識のズレに気づいてあげる
恵理さんが不登校やリストカットを行なう
隠された原因は「お母さんを独り占めしたい」
というものでした。
これは、恵理さん自身も気づいていなかった
無意識の欲求であったようです。
体を切らないと学校へ行けないということで、
リストカットをしては学校へ行く。
これが高じると、母親の前で
自殺をする可能性もでてきます。
また、自分たちは明るく楽しい家庭と思っていても、
実際には母親が「父親を立てなきゃいけない」という思いを
子供たちにも強いていたことにカウンセリングを通して
気が付くことができました。
夫に言えないストレスを子供に向けていたことにも
気が付くことができました。
母親というものは「子供が望むことが一番」と言いながらも、
知らないうちに自分の望むことを押し付けてしまいがちです。
学校で疲れていた恵理さんは、家にいても
明るく振舞うことで親の注目を集めようとして、
さらに疲れ果ててしまっていました。
「いい子でいること」に疲れてしまった恵理さんは、
今度は不登校やリストカットを行なうことで、
注目を集めようとしていたというわけです。
以上の実話は不登校の一例にすぎませんが、
子供の問題行動の隠れた原因に気づくことも
問題解決の重要な手掛かりになります。
(次の記事)>>過保護な親は間違っていない~過保護の本当の意味とは
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